ΛυΛμε.
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目次

肉じゃがは名刺、マグロは文学。

ナスの続きから、白米と寿司の話まで。ΛυΛμε.の、終わらないごはん談義。

杉本のナスの話には、続きがあった。

前回、自分でつくったナスがうますぎて「店、出せるわ」と確信した杉本。その話が記事になったことを知ると、今度は「そのスピード感」に驚く。料理ができる。誰かに話す。気がつくと、もう読めるようになっている。

ただし、話した本人の冷蔵庫では、まだ続きが進行していた。買ったナスが余っている。次に目をつけた食材もある。そこから始まった雑談は、得意料理の見せ方へ、米とおかずの比率へ、そして寿司ネタのキャラクター論へと広がっていく。

何を食べるか。その何を、どれくらい食べたいか。いつもなら注文ひとつで済んでしまう話を、ΛυΛμε.のメンバーで、ずいぶん遠くまで話した。

前の話を読む|「店、出せるわ。」杉本が“人生1位のナス”をつくった話。

ナスの次は、エリンギが待っている。

そもそも、ナスは三本入りだった。ひとりで料理をするには、少しだけ持て余す量でもある。「なんでバラ売りしてないんだろう」と思いつつ買って、使って、残った分をどうするか考える。大成功した一皿の後ろには、そういう生活の続きがある。

そして杉本は、次の候補も見つけていた。

「ナスのネクストになるものがないかなと思って、エリンギに目をつけたんです」

食材を選んでいるだけなのに、次の主演を探しているように聞こえる。ナスの次はキノコ。気がつけば、ちゃんと秋の味覚の話になっている。

バターで焼いてもおいしそうだ。でも杉本の頭にあるのは、やっぱり、あのえび油だった。前回のナスを成功へ導いた、カルディで見つけた一本。「またえびに浸しちゃおうかな」。新しい食材に出会っても、信頼する調味料は変わらない。

ナスは、油を吸わせた料理がうまい。そのことはわかる。でも、油を吸う料理ばかりではないか、と横から疑問が出る。ナスを食べているのか、ナスが吸った油を食べているのか。考え始めると、話がややこしい。

「ナスが透明になるほど、吸っているほうがうまいと思ってるんですけど」

その感覚には、うなずく声が返ってくる。理屈より先に、あの食感が浮かんでしまう。しかも今回は、ただの油ではなくえび油だ。話を聞いているうちに、「今日、スーパーに行きたくなっちゃった」という人まで出てきた。

会話に登場した調味料|北海道から 万能香味えび油 90g

得意料理は、肉じゃがです。

杉本にとって、自炊は必ずしも毎日の習慣ではない。しばらく料理をしていなかった時期もある。だからこそ、久しぶりに自分でつくる時間が、ちょっとした非日常になる。

料理がストレス発散になる人もいる、という話に、杉本はうなずく。そして続ける。

「楽しいし、僕がつくる料理って、なんでもうまいんですよね」

前回のナスのときから、この自信だけは一貫している。自分がおいしいと思うものをつくって、自分でちゃんと喜ぶ。そして人にも食べてもらいたくなる。今回は、肉じゃがも食べさせたいらしい。

肉じゃが、と聞くと、急に「ちゃんと料理をする人」の感じがする。目玉焼きとは、自己紹介の響きが違う。杉本の得意料理も、以前は目玉焼きだったという。そこに肉じゃがが加わった。

「得意料理は何ですか、って聞かれたときに、肉じゃがですかね、って」

なるほど、あの質問への回答も準備できる。すると今度は、なぜ肉じゃがなのか、という話になる。「得意料理は肉じゃが」と言わなければいけないような、昔からあるイメージ。その話をすると少し薄っぺらく聞こえる、とツッコミが入る。

でも、杉本にも言い分がある。

「まんまと言ったじゃないですか。肉じゃがって聞いて、そんなにやるんだって」

たしかに、効いてしまった。肉じゃがには、料理そのもののおいしさとは別に、つくる人を紹介してくれる働きがあるらしい。まだ一口も食べていないのに、名刺としては、もう仕事をしている。

ピーラーを買うまでの、遠い道のり。

肉じゃがには、料理のいろいろな工程が詰まっているのではないか。そんな話から、「芋をふかす」「だしを取る」と例が挙がる。ところが、そのたびに話が止まる。

「芋、ふかすんですか?」

「ふかさないし、だしは取らない」

現代には、便利な調味料もある。それぞれのつくり方があって、肉じゃがをひとつ挙げただけでは、工程はまだ揃わない。では、じゃがいもの皮はどうやってむいているのか。

ピーラーか、包丁か。たったそれだけの質問に、杉本は「長くなりますよ」と前置きする。

今はピーラーを使っている。でも、最初から家にあったわけではない。なかったころは、包丁でむいていた。「むけるんだ」と驚かれると、むけるかどうかではなく、むくしかなかったのだという。

その結果、皮をむくほど、じゃがいもが小さくなっていく。想定していたよりも、食べられる部分が減っていく。肉じゃがをつくろうとしたことで、ピーラーの必要性が、かなり切実なものになった。

スーパーに行けば、今度はじゃがいもの種類で迷う。メークイン、男爵。何を買えばいいのか。料理を始めると、これまで素通りしていた売り場に、いきなり選択肢が増える。得意料理をひとつ持つまでには、味付け以外にも、越えるものがいくつかある。

肉じゃが相談所、開きました。

杉本の肉じゃがには、解決したい問題がある。実家で食べていた肉じゃがは、じゃがいもが多めだった。じゃがいもを二つ食べて、肉を一つ。そういう配分になりがちだったという。

自分でつくるなら、じゃがいも一つに、肉も一つ。もう少し対等であってほしい。さらに、つゆもたっぷりあってほしい。乾いた感じではなく、しっかり汁気のあるじゃがいもがいい。

肉の量。じゃがいもの量。つゆの量。みんなが肉じゃがに抱えている悩みが、次々と持ち込まれる。

「肉じゃが相談所?」

「それを一手に解消するのが、僕の肉じゃが」

急に相談先が見つかった。さっきまでのナスの話も、ここへたどり着くための前段だったのかもしれない。少なくとも杉本の中では、自分の肉じゃがが、かなり有力な回答になっている。

「僕がつくるものは、結構びしゃびしゃですね」

言葉だけ聞くと心配になるけれど、本人が求めているのは、ごはんと一緒に食べたくなる汁気だ。おかずがぱさぱさだと、米に進もうと思えない。では、ごはんも柔らかいほうがいいのか。そこは、違うらしい。

「米は硬め」

受け止める側は、しっかりしていてほしい。つゆの多いおかずと、硬めのごはん。相談所の方針が、少しずつ見えてきた。

そのごはん、そもそも必要ですか。

ここまでは、米があることを前提に話していた。そこに、山本から別の立場が示される。パックのごはんは一応ある。でも、普段はあまり米を買わない。カレーも、ルーだけで食べることがあるという。

「だって、米ってかさ増しするだけじゃん」

ずいぶん強い言葉が出た。もちろん、これは山本個人の食べたい順番の話だ。食べたいのは、上に乗っているもの。肉だったり、カレーだったりする。おいしいおかずがあるなら、それをもっと食べたい。

では、卵かけごはんはどうなのか。明太子ごはんは。質問が続く。卵だけでは溶き卵を飲むことになってしまうから、そこにはごはんがあってもいい。でも明太子なら、単体でも食べられる。

「寿司はどう思いますか?」

そこは別らしい。寿司は、あの組み合わせで成立しているものとして受け入れられる。けれど、刺身を食べるときに、必ず米が欲しくなるわけではない。米を食べたい、という気持ちから食事を始めることも、あまりないという。

もちろん、反対側にも言いたいことはある。ごはんだけで食べたくなるほど、おいしい米がある。新潟のおいしい米の話も出てくる。けれど、山本は、おいしい米の存在を知らないわけではない。

おいしい米と、おいしい肉が、同じ場所にあったらどうするか。そう聞かれると、また話は最初に戻る。米がまずいと言っているのではなく、自分の食欲の中心に何があるかが違うのだ。

同じ定食を見ていても、見えている主役が違う。ここで、その差がはっきりしてきた。

大盛りにしてほしいのは、どっちなのか。

話は丼ものへ進む。「大盛り」と注文したとき、自分が増やしてほしかったのは、米なのか、おかずなのか。腹いっぱい食べたい、という言葉にも、かなり違う意味が入っている。

山本の不満は、肉をもっと食べたいのに、ごはんが増えていくように感じること。すた丼や牛丼の名前も出てきて、「頭の大盛り」「特盛り」と、記憶の中のメニューを並べ始める。満腹になりたい気持ちと、肉を食べたい気持ちは、似ているようで、少し違う。

その中で、オーベルジーヌが挙がる。ごはんとカレー、それぞれを増やす選び方があるのがいい、というのだ。増やしてほしい場所を、自分で選べる。そこがうれしい。

「俺は肉を食いに行ってるのに、米を食わされてる」

気持ちはわかる。でも、その理屈でいくと、ハンバーガーのパンも、かさ増しにならないだろうか。別の角度から、また質問が飛ぶ。

すると、パティが増えるハンバーガーの話になる。全体の量が増えるにしても、肉もちゃんと増えてほしい。そもそもバーガーは、パンに挟まれた料理として食べに行くものでもある。

なんでも炭水化物を抜きたい、という話ではなかった。何を食べるつもりで来たのか。その期待に、どのくらい応えてくれるかの話だった。そこまで説明して、ようやく少し、同じものが見えてくる。

話に出てきたお店|欧風カレー オーベルジーヌ 公式サイト

話に出てきたお店|伝説のすた丼屋 公式サイト

ナス一本に、肉三百グラム。

ここで、杉本のナスに新しい情報が加わる。

「三百グラムの肉に対して、使ったナスは一本」

もう一度、聞き直される。三百グラムの肉に、ナス一本。人生一位のナスの話をしていたはずなのに、重量で考えると、肉の存在感がかなり大きい。

ただし、ナスも普通の大きさではなかったらしい。長いナスを切って、さらに切って、いくつもの大きな切り身になった。熊本のナスではないか、という推測まで出るけれど、品種の確定には至らない。とにかく、本人の中では、ちゃんとナスが主役になるだけの量があった。

一口の米に対して、どれだけのおかずを合わせたいか。肉じゃがの話も、ナスの話も、そこへ戻ってくる。自分でつくるなら、既製の一人前に合わせなくていい。好きな比率にしてしまえばいい。杉本の料理の自信は、その自由さともつながっていそうだ。

話しているだけで、またお腹が減ってきたという声が上がる。料理の話は、食事をした代わりには、少しもならない。

米とおかず、タイマンならどうですか。

一方で、ごはんと何か一品だけ、という組み合わせを好きな人もいる。明太子とごはん。たくあんとごはん。豚汁とごはん。いろいろなおかずを並べず、米と相手を、一対一で向き合わせる。

会話の中では、それが「タイマン」と呼ばれ始める。

なんだか穏やかでない呼び方だけれど、想像する食卓は、むしろシンプルだ。おいしい汁ものがあって、ごはんがある。それだけで十分、という気持ちはわかる。

しかし、豚汁と米という組み合わせにも、異議が出る。

「主役、登場してない」

こちらは二人とも主役のつもりだったのに、向こうから見ると、まだ誰も登場していない。食事の好みの違いが、だんだん配役会議のようになってきた。

しかも、その話をしている間に、パスタやピザの候補が挙がり始める。米をめぐる議論を続けながら、別の炭水化物を選んでいる。論点は多いが、食欲はそれより速い。

パスタの選び方に、その人が出る。

メニューを見ていると、また好みが分かれる。ボロネーゼに行きたい人。キノコと迷う人。トマトソースとチーズに惹かれる人。海鮮を選ぶ人。

パスタの選び方に、その人の好みが表れる。そんな話にまでなってきた。

性格診断のようだけれど、さっきまで肉の量を気にしていた人がボロネーゼに向かうのを見ると、たしかに少し、納得してしまう。

サイゼリヤの話も出てくる。タラコソースシシリー風。そこに辛味チキンをつけたら、もう贅沢だという。いつも選ぶものには、その人の中で完成している組み合わせがある。

一方で、トマトとチーズだけでも十分満足できる、という人に対しては、また「主役は?」という疑問が出る。ベーコンが入っていても、まだ脇役だという。食材への配役が、なかなか厳しい。

カニの風味が加わるパスタの話になれば、そちらへ気持ちが動く人もいる。そして「イカの明太子クリームパスタにします」と、実際の選択に進む声がする。

好きなものを聞くだけなら簡単だ。けれど、何と何で迷ったのか、何が足りないと感じるのかまで聞くと、ずいぶん輪郭が出てくる。ボロネーゼを選ぶまでの数分だけでも、これだけ話せる。

会話に登場したメニュー|サイゼリヤ タラコソースシシリー風

話に出てきたお店|カプリチョーザ メニュー

マグロは文学、サーモンはラノベ。

海鮮の話から、刺身と寿司へ。魚は生で食べたい、という声が出る。もちろん焼き魚もあるけれど、サーモンをソテーにするなら、生のまま食べたい。そんな好みだ。

では、炙りはどうなのか。炙りを考えた人は天才だという意見もあれば、サーモンの寿司は炙らないでほしい、という意見もある。火を入れるかどうかだけでも、また少し、立場が分かれる。

いちばん好きなネタは何か、という話になると、前原に矛先が向く。
彼はいろいろな変遷を経て「今はマグロ」という答えが出る。

「マグロの赤身って、なんでこんなにおいしいの?と思う」

「主人公だからっすよ」

ついに、理由が物語の中へ入った。マグロが主人公なら、サーモンは何なのか。「サスケ(NARUTO)」という名前が出る。すると、さらに別のたとえが前原から重ねられる。

「マグロは、もはや文学。サーモンはラノベ。上下ってことじゃなく、そういう違いなんだ。」

寿司を食べる話のはずなのに、急に書店の棚が見えてきた。どちらが上かというより、それぞれの魅力を、別の言葉で言いたくなっている。

そこから、漫画の主人公の好みにまで話が飛ぶ。王道の主人公と、影のあるライバル。最近は、サスケのようなキャラクターを主人公に据える作品が多い。という議論にまで発展する。寿司ネタをめぐる雑談の中で、各自の好きな物語まで顔を出してくる。

カンパチは白ひげ。では、えんがわは。

いったん始まると、この配役会議は止まらない。カンパチは強キャラ。『ONE PIECE』なら、白ひげのような存在だという。

では、えんがわはどうか。『NARUTO』の三代目火影のようだという案が出たかと思えば、レイリーのようだという声もある。なぜそのキャラクターなのか、きっちりした基準はない。でも、なんとなくわかってしまう瞬間がある。

サーモンにも、まだ分類が必要だ。生のサーモンと、炙ったサーモンは同じキャラクターなのか。チーズやマヨネーズが加わったら、それはまた別ではないか。

「サーモンはサスケだけど、炙りサーモンはちょっと違う」

もう、誰も最初の設定を疑わなくなっている。議論するべきなのは、炙りによって何が変わるかのほうだ。大蛇丸か、イタチか。候補が増えていく。

マグロも、ひとまとめにはできない。赤身と中トロでは、役が違う。赤身はケンシロウ、中トロはルフィではないか。いや、赤身は承太郎という感じもする。

決定版の一覧は、最後までできなかった。同じネタを好きでも、その好きの中身は少しずつ違うらしい。それにしても、肉じゃがの話をしていたところから、ずいぶん遠くへ来た。

寿司は、何皿からが大食いなのか。

ここまで話すと、当然、寿司を食べに行きたくなる。知人に連れていってもらった店の話も出てきた。朝から食事を抜いて臨んだのに、コースの途中で驚くほどお腹がいっぱいになったという。

しかも、「まだいけますか」と、その先にも料理が出てくる。おいしい。でも、量もすごい。山本にも、ぜひ一度行ってみてほしい、という誘いになる。

では、回転寿司なら、何皿くらい食べるのか。十皿を超える話、大学時代には三十皿だったという話。そして、「父と二人で百皿」という話まで飛び出してくる。数字を聞くたびに、比較の基準が動いてしまう。

一皿に二貫なのか、一貫なのか。今でも同じ量を食べられるのか。全盛期の記録と、現在の食欲は、同じものとして扱っていいのか。さっきまでの配役会議とは別の意味で、また条件を揃える必要が出てきた。

スシローでも、くら寿司でもいい。実際に行ってみれば、話は早い。けれど、食べ終わった皿が積み上がっていく店と、皿を回収口に入れられる店とでは、食べた量の見え方も違う。ここにも、それぞれの気になる点がある。

大食いかどうかは、本人の申告だけでは、なかなか決まらない。関口の食べる量の話まで加わって、ごはん談義は、いよいよ実地で確かめるしかないところへ進んでいく。

最初にあったのは、冷蔵庫に残ったナスの話だった。そこから肉じゃがの自己紹介効果を発見し、米の立場を問い直し、最後はマグロに主人公を任せるところまで来た。

得意料理は肉じゃが。米より肉。赤身は文学。好みをひとことにすると簡単なのに、その理由を聞くと、いくらでも続きが出てくる。

次にみんなで寿司を食べに行ったら、何皿食べるかだけでなく、どのネタから手を伸ばすかも気になってしまいそうだ。その前に、杉本のエリンギはどうなっただろう。ごはんの話には、いつも次の一皿が待っている。

※本記事は録音した会話をもとに、読みやすく構成・編集しています。